さくらの将棋研究室

ただの将棋好きが将棋のことをダラダラと書くブログです。

【短編小説】ハム将棋の憂鬱

※ 本小説は2020年1月某日にネット上から姿を消した将棋対局サイト「ハム将棋」に敬意を表して書かれたものです。

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--------------------- それでは本編 ----------------------------

 

「ふぅ~・・・」

溜息混じりに煙草の煙を吐き出す。

「久しぶりの休憩なのだ・・・って、おっと、また人が来たのだ。」

愛くるしいその茶色と白色の生物は吸いかけの煙草をすぐに消した。

「人間の間ではハムスターは"可愛い"ということになってるみたいなのだ。煙草を吸ってるのを見られたら難しい言葉で言うと"イメージダウン"ってやつなのだ。」

彼の名はハム将棋。

将棋が指せるハムスターだ。

将棋を始めたばかりの者は皆彼の元を訪れ対局し、強くなれば彼の元を去ってゆく・・・そんな存在。

「・・・今日も僕の勝ちなのだ!顔を洗って出直してくるのだ!(キマったのだ!)」

また初心者がハム将棋に負かされたようだ。

「・・・・・・ふぅ・・・僕がハムスターの中で一番頭がいいからって、突然よく分からない人間に"将棋"ってやつを覚えさせられてここに閉じ込められて・・・。」

「一体いつまでこんなことしていればいいのだ!僕はのんびりヒマワリの種を食べてダラダラしたいだけなのだ!!」

「・・・・・・でも・・・僕に勝っていった人間は皆嬉しそうなのだ・・・。」

24時間365日将棋を指し続けるハムスター。

初心者からすれば絶妙な強さ。

彼に勝った喜びは格別だろう。

彼を倒した者は"初心者卒業"と言われている。

当然ハムスターの彼にはそんなこと知る由もないが。

「そういえば・・・何年か前に何局か・・・あぁもう毎日人間が来すぎて正確に覚えてないのだ。あの子・・・"プロ棋士"とかいう将棋の強い人になったみたいなのだ。ヤフーニュースに載ってたのだ!」

「まぁ、僕はハムスターだから人間がどうなろうと知ったことではないのだけど。」

「・・・・・・人間の喜んだ顔を見るのは最近悪くないなって思うときがあるのだ。」

そんな小さな生きがいを感じながら、再び煙草に火を点ける。

「でも・・・僕を倒した後はほとんどの人間は僕のところに来なくなるのだ・・・。たまには僕のところに菓子折りでも持って挨拶しに来るのだ!人間ってやつは僕がハムスターだからってナメてるのだ!」

話すような友達もほとんどいないそのハムスターは、いつものように大きな声で独り言を言う。

「それにしても、最近の人間は強くなるのが早すぎなのだ!・・・・・・まぁ・・・僕もいい歳なのだ・・・。」

「ハム師匠おおおおお!!!!!!!」

突然、愛くるしい黄色い生物がやってきた。

「突然何なのだ!その"師匠"とかいう人間みたいな呼び方は止めるのだと何度言ったr」

「ハム師匠!!将棋を辞めるってホントぴよ!?」

「だああああ、こんな近い距離で声が大きいのだ!!」

意を決したかのようにハムスターは落ち着いて話し始めた。

「・・・・・・ホントなのだ・・・将棋を辞めることにしたのだ・・・。」

「・・・・・・なんでぴよ・・・。」

その愛くるしい黄色い生物の名はぴよ将棋。

ハム将棋と同様、"何者かに将棋を覚えさせられたひよこ"だ。

「・・・この間、人間が話をしているのを聞いてしまったのだ・・・。"FLASHゲームはもう時代遅れ"とか、"ぴよ将棋の方が機能が充実してる"とか・・・。」

「人間の言葉は難しくていつもよく分からないのだ。けど、"僕の役目は終わり"と言われているのはなんとなく分かったのだ。」

「ハム師匠がどれだけの人間に必要とされてるか分かって言ってるぴよ!!?」

「ハムスターの僕がそんなの知ったこっちゃないのだ!!正直疲れたのだ・・・。」

「・・・・・・ハム師匠・・・。」

ハムスターは再び、いやもう人生で何度目か分からない溜息混じりの煙草の煙を吐き出す。

休まず何年も将棋を指すだけの生活をしてきたそのハムスターの表情は悲しげな、一つの仕事のやり遂げたかのような、はたまた別の感情のような、複雑に感情が入り混じった顔をしていた。

どこか遠くを見つめて静かになったハムスターを見て、ひよこも諦めたかのように静かにその場を去った。

「・・・・・・・・・さて、支度するのだ。」

彼が暮らしてきたその空間にあるのは将棋盤と駒だけ。

それを静かに掃除する。

「ひっきりなしに人間が来るから盤と駒の掃除なんてしたことないのだ・・・。盤と駒の掃除なんてまるで人間みたいなのだ。って全然綺麗にならないのだ・・・。」

黒くくすんだ盤と駒を見つめながら、もはや取れることもない汚れを取ろうとし続ける。

「これ以上は無理なのだ。・・・よし、行くのだ。」

荷物など何もない彼は静かに立ち上がった。

「まぁ、この暮らしもまんざらでもなかったのだ。」

彼は誰もいないのを確認し、その場をゆっくりと後にした。

自分がどれだけの人間に役立ってきたか。そんな功績など知らずに。

「僕は気まぐれだから、また戻ってくるかもしれないのだ。」

誰に言うでもなく小さな独り言を放つ。

その偉大な小さなハムスターの姿は、気付けば消えるようにいなくなっていた。

けれど、またどこかで会える日が来るかもしれない。

そんな気がした。

 

終わり